【岡山大学】タンパク質と水と共溶媒の「三角関係」を解く方法を考案 ~タンパク質医薬品の開発に必要な膨大な計算コストの効率化に貢献~

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2023(令和5)年 10月 3日
国立大学法人岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/

<発表のポイント>

  • 尿素やアルコールなどの共溶媒はタンパク質を変性させますが、その変性の分子メカニズムには不明な点が多く残されています。しかし、新しい共溶媒の開発は、たくさんの実験と検証を積み重ねた研究者の経験に頼る部分が多く、複数回の試行錯誤が必要なことが課題となっています。

  • 今回、タンパク質変性におけるタンパク質と水と共溶媒の「三角関係」を解く方法を考案しました。

  • 本研究で提案した解析法を用いることで、膨大な計算コストを必要としてきた共溶媒効果による構造安定性の評価の効率化に貢献することが期待されます。

◆概 要
 国立大学法人岡山大学(本部:岡山市北区、学長:那須保友)の大学院自然科学研究科の中田乃愛元大学院生(令和5年3月修士課程修了)、兵庫県立大学大学院情報科学研究科の岡本隆一特任講師、岡山大学異分野基礎科学研究所の墨智成准教授および甲賀研一郎教授、千葉大学大学院理学研究院の森田剛准教授、長浜バイオ大学バイオサイエンス学部の今村比呂志助教は、尿素やアルコールによるタンパク質の変性の分子メカニズムを、分子シミュレーションを活用したデータ解析により明らかにしました。

 尿素はタンパク質の分離・抽出において必要な変性剤として用いられ、アルコールはタンパク質の働きのコントロールに活用されています。水に加えることで効果を発揮するこれらの添加物は共溶媒と呼ばれ、古くより利用されてきました。しかし、共溶媒効果の分子メカニズムは複雑で十分な理解に至っていません。今回の研究では、鍵となるタンパク質、水、共溶媒の三者の相互作用の「三角関係」を解く方法を考案しました。

その結果、尿素はタンパク質の壊れた構造を好んでそれとの直接相互作用により吸着し、変性を促進する一方、2,2,2-トリフルオロエタノール(アルコールの一種)はαヘリックス構造に好んで直接相互作用することで、その周囲に集まりαヘリックス構造の安定化を導くことがわかりました。また水はいつも共溶媒と協力しながら、変性を誘導していることも発見されました。

 本研究は2023年8月25日、タンパク質科学会誌「Protein Science」にオンライン掲載されました。

図1. タンパク質の立体構造への共溶媒効果。タンパク質の正常な構造と壊れた構造は絶妙なバランスで保たれている。普通は正常な構造の方が、わずかに重みがある(比率が多くなる)ことをシーソーの絵で例えている。共溶媒によってどちらの構造に、どれくらいの重みがかかるかは共溶媒の種類によるが、その予測は困難である。

図2. タンパク質と水と共溶媒の三角関係を解く方法の、アルコールの場合のイメージ。

◆墨智成准教授からのひとこと

 共溶媒効果を評価する式に、今回ちょっとした工夫を加えることで、これまではっきりしなかった「三角関係」を明確にできた時は、とてもスッキリしました。これで水が変性を誘導していることを初めて示せました。そして、タンパク質周りのアルコール分子の配向を解析した時には、大変驚きました。大きな疎水基を持つアルコールは、界面活性剤が油滴を取り囲む時と同様に、タンパク質周りに「ミセル様配向」を形成すると考えられていたからです。ところが解析プログラムを作成し計算してみたところ、むしろ「逆ミセル様配向」の傾向が得られたのです。タンパク質は油滴ほど疎水的ではなく、表面に露出した極性基との静電力による影響であることが新たにわかってきました。

墨智成准教授墨智成准教授

◆論文情報
 論文名: Molecular mechanism of the common and opposing co-solvent effects of fluorinated alcohol and urea on a coiled coil protein
 掲載誌: Protein Science
 著 者: Noa Nakata, Ryuichi Okamoto, Tomonari Sumi, Kenichiro Koga, Takeshi Morita, and Hiroshi Imamura
 D O I: 10.1002/pro.4763
 U R L:  https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pro.4763

◆研究資金
 本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(JP20K05431, JP22H01888, JP21K06503)の助成を受け実施しました。

◆詳しいプレスリリースについて

 タンパク質と水と共溶媒の「三角関係」を解く方法を考案~タンパク質医薬品の開発に必要な膨大な計算コストの効率化に貢献~

 https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r5/press20230927-1.pdf

◆参 考
・岡山大学異分野基礎科学研究所(RIIS)
 http://www.riis.okayama-u.ac.jp/

◆参考情報
・【岡山大学】新型コロナ後遺症の原因とされる宿主内持続感染は起きるのか 〜全身性感染と不十分な免疫応答は持続感染のリスク要因に〜
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000778.000072793.html
・【岡山大学】最終普遍共通祖先LUCAの炭素代謝経路を支配する新たな速度論的仮説 〜速度論的競合が生み出す炭素代謝経路の多様性〜
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000306.000072793.html
・【岡山大学】水はタンパク質の立体構造を不安定化する ~長年信じられてきたタンパク質変性メカニズムの見直しへ~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000249.000072793.html
・アザラシの海洋適応に伴うタンパク質進化のしくみを解明
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000233.000072793.html

・【岡山大学】ムスカリン受容体依存シナプス可塑性の仕組みとアルツハイマー病との関係 〜学習と記憶を司るNMDA受容体依存シナプス可塑性との統一的理解〜                                                    

 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001261.000072793.html

岡山大学異分野基礎科学研究所(岡山大学津島キャンパス)岡山大学異分野基礎科学研究所(岡山大学津島キャンパス)

◆本件お問い合わせ先
 岡山大学異分野基礎科学研究所 准教授 墨 智成
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3-1-1 岡山大学津島キャンパス
 TEL: 086-251-7837
 http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~sumi/index.html

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 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
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 https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/

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 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001683.000072793.html
   
 岡山大学「THEインパクトランキング2021」総合ランキング 世界トップ200位以内、国内同列1位!!
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000070.000072793.html
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