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止まない民間人への攻撃
コスチャンティニウカ病院に勤務するMSFの麻酔科医、イリア・ビロコノフは「緊急で病院に呼ばれて行ってみると、病室と廊下は負傷者であふれていました。地雷による負傷ややけどなど、ほとんどが重傷です。外傷外科医は全員、患者の対応に当たり、手術室もフル稼働。残念なことに、民間人や民間インフラへの攻撃は、ここでも頻繁に起きています」と憤る。
病院では、5人の患者が緊急手術のため直ちに手術室に移された。また、MSFは専門治療のために重症患者4人をコスチャンティニウカからドニプロに搬送。そのうちの1人は若い女性で、腹部貫通損傷、胸部外傷、気胸、大量出血のため、人工呼吸器による補助と継続的な医療処置を必要とした。患者の母親のインナさんは「攻撃があったとき、娘は市場で売り子をしていました」と話した。
「ロケットの音がしたんです。爆風で後ろに投げ出されましたが、立ち上がるとすぐに市場に向かいました。心臓が大きな音を立てていました。娘は燃え盛る2台の車の間に横たわっていて、私が叫ぶと、駆け寄ってきた通行人が娘を引っ張り出してくれました」
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激しい攻撃と爆発が日常に
コスチャンティニウカは前線のバフムートから西に約20キロに位置し、町の近郊を含めて激しい攻撃と爆発がほぼ毎日起きている。戦線が侵攻するにつれ、同地域の住民の危険度は増すばかりだ。
「今回の市場への攻撃では、子どもを含む少なくとも17人が死亡したと報告されています。病院では30人以上の負傷者を受け入れ、その多くがとても危険な状態でした。病院や医療スタッフは厳しい状況の中で働いています」とMSFの医療チームリーダー、バージニア・モネティは話す。
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治療の継続性を確保
コスチャンティニウカ病院は、東部の前線付近で機能している数少ない医療施設のひとつだ。近隣の町では、多くの医療施設が破壊もしくは閉鎖されたことに加え、医療スタッフを含む人びとが他の地域に避難してしまったため、同病院で地域全体からの患者に対応している。
しかし、ほぼ絶え間なく続く砲撃と警報音によって、医療にアクセスするために人びとは慎重にリスクをとらざるをえない。この地域に残る人びとの多くは慢性疾患を抱える高齢者で、治療を続けるため、MSFはコスチャンティニウカ近郊の村で移動診療を行い、身体的・心のケアを提供している。
ドネツク州で戦闘が激化するなか、MSFは、前線近くの過酷な状況下で膨大なニーズに応えているウクライナの医療体制を支援し、戦争によって生じ、悪化したギャップを埋めている。
MSFは今年5月から7月にかけて、ドネツク州で移動診療を通じて約1万件の診療と約800件の心のケアを実施。ドネツク、ヘルソン、ドニプロペトロウシク、ザポリージャの前線近くで活動する救急車は、今年8月末までに6968人以上の患者を搬送したが、このうち約60%が暴力による外傷に苦しんでいた。さらに3489人の患者が、MSFの医療搬送列車によって、ウクライナの東部から西部へと搬送された。また最近では、ドネツク州のセリドーブ病院へ麻酔科医と外科医を派遣し支援を開始している。 |