本レポートでは、「広域渋谷圏※2」を自然関連情報の検討・分析を行う優先地域とし、TNFDが提示する「ガバナンス」「戦略」「リスク・インパクト管理」「測定指標とターゲット」のフレームワークで、当社グループの自然資本に関わるインパクトと依存、リスクと機会に関してとりまとめて開示しています。
また、今回のTNFDが推奨するLEAPアプローチ※3による評価により、当社グループの広域渋谷圏のオフィス・商業施設および複合施設の建設前と建設後を比較した結果、他社物件を含めたエリア内の商業地域全体の緑地面積割合が低下を続ける一方、東急プラザ表参道原宿の開業など2012年度頃を境にして、当社グループが展開する39物件合計において、生物多様性の損失から反転し、回復傾向(ネイチャーポジティブ)となっていることが分かりました。
特に、都市再開発事業の対象となっている物件は、緑地の質や量がこれまでの施設と比べて高い傾向にあり、
今後も、事業を通したネイチャーポジティブへの貢献に取り組んでまいります。
※1 自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures, またはTNFD)とは、2021年に発足した自然関連の依存・インパクト、リスクと機会を適切に評価し、開示することを要請する国際的なタスクフォース。気候変動におけるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Climate-related Financial Disclosures))と連動したフレームワークを提示している。
※2「広域渋谷圏(Greater SHIBUYA)」とは、東急グループの渋谷まちづくり戦略において定めた、渋谷駅から半径2.5km圏のエリアを指しており、本レポートでは、当社グループとして広域渋谷圏を優先地域と定めています。
※3 LEAPアプローチとは、「Locate:自然との接点の発見」「Evaluate:依存・インパクトの診断」「Assess:リスク・機会の評価」「Prepare:対応・報告の準備」の4つのフェーズから構成されるアプローチ。
■事業におけるネイチャーポジティブへの貢献の背景
1.当社グループにおける生物多様性の取り組み
当社グループは長期ビジョン及び中期経営計画2025において環境経営を全社方針としており、「脱炭素社会」「循環型社会」「生物多様性」の重点課題への取り組みを通じ、環境を起点とした事業機会の拡大を目指しています。中でも「生物多様性」は、土地や様々な資源の利用、自然によるレクリエーションや人々のゆとり・癒しや生産性の向上、そして資産価値向上など、多様な側面で自然に依存し、インパクトを与えながら事業が成り立っていることから、重要な課題と認識し、2011年に生物多様性方針を策定するなど、早期より自然と共生する取り組みを継続的に実施してきました。
また、「地域特性を踏まえたネイチャーポジティブへの貢献」を目標に掲げ、都市においては、都市に点在する緑を繋ぐ、人と自然に配慮した緑化、地方においては、生態系サービスとの共存を取組み目標として、不動産開発・運営管理を行っています。
2.国内外の動向
近年では、世界の多くの場所で生態系や生物多様性の急速な低下が進み、国際的に自然損失の阻止・回復の重要性の認識が高まっています。2022年12月に開催された第15回国連生物多様性条約締約国会議(COP15)において、生物多様性に関する国際目標として「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」が採択され、2050年までのビジョンとして「Living in harmony with nature(自然と共生する社会)」や、2030年までに「生物多様性の損失を止め反転させ、自然を回復軌道に乗せるための緊急的な行動をとる」という「ネイチャーポジティブ」を目指すミッション等が定められました。
GBFでは企業が自らの事業における生物多様性への依存、インパクトやリスクを把握・開示することも盛り込まれており、2021年に設立されたTNFDは、企業などが自然関連の依存・インパクトやリスクと機会を把握・管理し情報開示や行動につなげるための国際的なフレームワークの開発を進めています。
当社グループはGBF、生物多様性国家戦略やまちづくりGX、TNFDなど国内外の政策動向や枠組みを踏まえて、今般、生物多様性方針(以下、「本方針」)を改定。今まで以上に踏み込んだネイチャーポジティブへの貢献を進めて参ります。
■ネイチャーポジティブへの貢献に向けた取り組み 第1弾:「TNFDレポート」公開
生物多様性に関する具体的な取り組みの第一弾として、自然関連のリスク・機会を把握したうえで情報開示や戦略・取り組みにつなげることの重要性を認識し、「TNFDレポート」を公開しました。本レポートでは、2023年9月に予定されているTNFDの最終提言の発表に先立ち、2023年3月に公開されたベータ版v0.4の内容を参考に、MS&ADインターリスク総研株式会社(以下、「MS&AD」)および株式会社シンク・ネイチャー(以下、「シンク・ネイチャー」)と共同で、当社グループの自然関連リスク・機会について検討した結果と自然資本に関する当社グループのこれまでの取り組みを開示しています。
1.「TNFDレポート」概要
TNFDの開示枠組であるガバナンス、戦略、リスク・インパクト管理、測定指標とターゲットに従い、LEAPプロセスに沿って依存・インパクトの診断を行い、リスク・機会を整理しました。
●STEP1 自然へのインパクト・依存の概観および優先地域の設定
まず、当社グループ全体におけるインパクト・依存の重要性を、ENCORE※4等のツールを用いて評価しました。インパクト面では不動産開発・運営時の土地改変・占有などの面で「陸域生態系の利用」の影響が特に大きく、依存の面では資源等の供給サービスや、自然による癒し・景観や人々のひらめき・生産性向上などの文化的サービスの観点での自然への依存が特に大きいことが分かりました。
次に、自然の十全性・重要性に加えて事業規模の観点からマッピングし、優先地域の検討を行いました。自然の十全性・重要性と、事業規模を踏まえた潜在的なインパクトの大きさの観点から、広域渋谷圏における都市開発事業や地方のリゾート施設が位置する地域を優先地域としました。
※4 ENCOREとはUNEP-NCFA(自然資本金融アライアンス)が開発した金融機関向けツールで、業種別の自然への依存・インパクトの重要性の把握や、生態系サービスの分布などを分析することが可能。
●STEP2 広域渋谷圏におけるLEAPアプローチ
優先地域とした広域渋谷圏の当社グループ39物件について、TNFDが推奨するLEAPによる評価を行いました。定量評価結果は、1ページ目に記載の通りです。他社物件を含む広域渋谷圏の商業地域全体では年々緑地率が下がっているのに対し、当社グループ39物件では、2012年度以降、開発前に比べ開発後の緑地面積割合が増えるなど、生物多様性の損失から反転し、回復傾向(=ネイチャーポジティブ)となっていることが分かりました。
これは、都市再開発事業の実施対象や既存物件での緑化拡大など、当社グループが展開する地域と共生したまちづくりにおいて、緑の量や質の確保と来街者及び施設利用者の快適性を調和させた開発・運営を行っていることが貢献していると考えます。
TNFDレポートはこちらをご覧ください。
https://tokyu-fudosan-hd-csr.disclosure.site/pdf/environment/tnfd_report.pdf
2.今後の対応
今回分析した広域渋谷圏に加え、今後はリゾート施設などの優先地域でも依存・インパクト、リスク・機会のより詳しい分析を行う予定です。今後も事業活動を通した取り組みを推進し、ネイチャーポジティブに貢献してまいります。
3.グループ会社・パートナー企業・大学との協業
環境緑化事業を担う石勝エクステリアの緑化・植栽管理をはじめとしてグループ各社*で取り組むとともに、TNFDメンバーでもあるMS&ADの策定支援・監修、衛星データを含めた生物多様性ビッグデータ等を活用するスタートアップのシンク・ネイチャーの定量分析など、生物多様性に精通したパートナー企業と協業しています。また、東京都市大学との共同研究も行っています。
■長期ビジョン「GROUP VISION 2030」でめざす、「環境経営」と「DX」の取り組み
当社は2021年に長期ビジョン「GROUP VISION 2030」を発表しました。多様なグリーンの力で2030年にありたい姿を実現していく私たちの姿勢を表現する「WE ARE GREEN」をスローガンに、「環境経営」「DX」を全社方針として取り組んでいます。
HDの中核企業である東急不動産では「環境先進企業」をめざして様々な取り組みを積極的に進めており、2022年12月には事業所及び保有施設※の100%再生可能エネルギーへの切り替えを完了しました。
※一部の共同事業案件などを除く
東急不動産ホールディングス「GROUP VISION 2030」について
東急不動産ホールディングス「中期経営計画2025」について
https://www.tokyu-fudosan-hd.co.jp/ir/mgtpolicy/mid-term-plan/