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援助を必要とする人が見つからない事態
緊急に医療を必要とする人がレスボス島に到着すると、MSFは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)やその他の支援団体から通報を受ける。MSFが最近治療した何人かの患者は、以前ギリシャ上陸を試みた際に、無理やり海に押し返され、心に傷を負うような妨害を受けたと話している。レスボス島で人びとは恐怖で身を隠しているか医療チームが見つける前に海に押し返されてしまうため、医療を必要としている人を発見する事は困難な状況が続いている。
レスボス島でMSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるニハル・オスマンは、「医療を必要とする人が新たに到着したと分かっても、森の中に隠れている場合が多く、何時間も、時には何日もかけて探さなければなりません。2022年6月にMSFが緊急医療援助を開始して以来、報告された場所で見つけられなかった人は約940人に上ります」と話す。
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基本的な権利の剥奪
レスボス島に到着した移民や保護希望者は、到着した島に応じて、欧州連合(EU)が資金援助する「閉鎖型収容施設」のマブロブーニかメガラ・テルマのどちらかに送られる。同施設は、ヨーロッパに到着した人びとの生活環境を改善するという触れ込みだったが、実際には、その設計は移民・難民の動きを著しく制限し、刑務所のような施設に閉じ込めるものであった。
5月17日、ギリシャ当局は、保護申請中の人以外の全ての移民・難民への食料提供を停止。さらに、島に移住した多くの子どもたちから社会保障番号を剥奪した。これにより子どもたちは、基礎的な予防接種を受ける資格がなくなり、人権が侵害されている。
オスマンによると、閉鎖型収容施設内の緊張は高まり、患者は何時間も行列に並ぶ屈辱感や、食事を減らされたことへの不満を訴えているという。「政府は食料を取り上げて人びとを施設から出て行かせようとしています。食料や避難所へのアクセスといった基本的な権利を剥奪することは、体と心の健康に深刻な影響を与える恐れがあります」
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2週間以上の拘束
MSFが2020年から医療を提供しているレスボス島北岸のメガラ・テルマでは、特に憂慮すべき状況となっている。ここは、以前は政府の 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)検疫センターであったが、現在はマブロブーニ閉鎖型収容施設に移送する前の移住者を収容する施設となっている。人びとは未登録の状態で、マブロブーニに移送されるまで、何日間も、場合によっては2週間以上も恣意(しい)的に拘束されることになる。メガラ・テルマの生活環境は悲惨で、人びとはベッドがない過密な難民用の住宅に入れられ、5人用のユニットに14人が押し込まれることさえある。また、この施設は外部から遮断されており、MSFのような団体が急患対応のために入ることさえ困難である。
オスマンは、「メガラ・テルマでは、子どもを含む全ての人が、ひとまとめに収容されています。健康状態や保護手続き中かどうかも考慮されません。MSFの医師が週2回訪問していますが、それ以外の日は急患対応できる人はおらず、救急車が到着するのに1時間以上かかります。ここはEU加盟国が支援し、欧州委員会が資金を提供する閉鎖型収容施設がいかに残酷で役に立たないかを表しています。MSFはこのような過酷な政策を広く批判し、非難します」と訴える。
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調査の開始と援助へのアクセス確保を
ギリシャ当局と欧州委員会は、正体不明の覆面集団が、移民や難民を組織的に国境外へ押し返し、陸上と海上で人びとの生命を危険にさらし、かつ、人びとが脅迫され、拉致され、粗末に扱われているという疑惑を直ちに調査する必要がある。さらに、新たに島に到着した人びとがメガラ・テルマで登録もされず、恣意(しい)的に拘束される状況はあってはならない。レスボス島で安全を求める全ての人びとが、法的地位に関係なく、専用の受け入れ施設で緊急医療を含む質の高い医療と人道援助を適時に受けられることが求められている。
MSFは1996年からギリシャで保護希望者、難民、移民に医療・人道援助を行っている。2022年以降は、ボートでレスボス島に到着した人びとに緊急医療援助を行っている。MSFの活動には、基礎医療、慢性疾患の治療、リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)、個人とグループ単位で行う心のケア、精神科ケア、社会福祉と法的支援をまとめた支援が含まれている。 |