IceCubeニュートリノ観測実験・アップグレード計画の主要検出器が完成 千葉大学が開発したD-Egg光検出器、2024年に南極点へ

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千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターの吉田滋教授と石原安野教授を代表とする千葉大学グループは、南極点で宇宙から飛来する高エネルギーニュートリノを観測する国際共同研究プロジェクト「IceCube (アイスキューブ)」のために日本の優れた技術と部品を積極的に取り入れ開発した新光検出器モジュール「D-Egg」(ディーエッグ)320台を製造し、その性能検証結果を論文 ”D-Egg: a Dual PMT Optical Module for IceCube”にて発表しました。2024年、日本が生んだ先端技術が、南極点という極限環境で科学観測のため活躍します。

千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターの吉田滋教授と石原安野教授を代表とする千葉大学グループは、南極点で宇宙から飛来する高エネルギーニュートリノ(注1)を観測する国際共同研究プロジェクト「IceCube (アイスキューブ)」(注2)に2002年から参加しています。

この度、千葉大学グループは国内の企業らと協力し、日本の優れた技術と部品を積極的に取り入れ開発した新光検出器モジュール「D-Egg」(ディーエッグ:Dual optical sensors in an Ellipsoid Glass for Gen2)320台を製造し、その性能検証結果を論文 ”D-Egg: a Dual PMT Optical Module for IceCube”にて発表しました。同論文は、学術誌 Journal of Instrumentation (JINST) から2023年4月11日に出版されました。

D-Eggの光検出感度は、現行のIceCube光検出器(注3)と比べおよそ3倍向上し、より低コストで宇宙ニュートリノ観測網を築くことが可能となりました。このD-Eggは、南極点に展開する世界最大の宇宙ニュートリノ観測実験をアップグレードする基幹検出器として、南極点に移送される予定です。2024年、日本が生んだ先端技術が、南極点という極限環境で科学観測のため活躍します(図1)。

図1:IceCubeアップグレード計画で、南極点の氷河下に埋設されたD-Egg検出器のイメージ図1:IceCubeアップグレード計画で、南極点の氷河下に埋設されたD-Egg検出器のイメージ

  • 背景:新型光検出モジュールの開発に向けて

南極点で稼働中である世界最大の宇宙ニュートリノ観測実験IceCube (アイスキューブ)は、宇宙から地球に届いたニュートリノが南極点の氷中の原子核や電子と衝突した際に放射されるチェレンコフ光を検出することで、目に見えないニュートリノを捉えます。IceCubeはこれまでに、可視光に比べ1000兆倍も高いエネルギーをもつニュートリノ放射の発見やその放射天体を同定するなど、新しい宇宙観測のフロンティアを広げてきました。この観測をさらに高感度化し、より大規模な観測を実現するために、氷河深くに埋め込めることのできる耐圧性能を持ちながらも、より微弱な紫外光を検出する新しい高性能光センサーモジュールが求められてきました。また、氷河に埋設する高額なコストを低減するには、このモジュールはより小型である必要もありました。

  • D-Egg検出器の検証測定結果と製作・検証

 2002年のIceCube実験国際共同チームの発足当初からのメンバーである千葉大学グループは、過去にニュートリノ検出に使われたセンサーの製作で実績のある企業はもとより、ニュートリノ検出器に部品を提供することが全く初めての企業からの部品も多く取り入れ、光検出器モジュール「D-Egg」を完成させました。D-Egg検出器モジュールの検証測定の結果、現行のIceCube実験用検出器モジュールに比べ、20%小型でありながら、2.8倍の検出効率を持つことが実証されました。

【光センサー】

光検出器の要となる光センサー部分を担う光電子増倍管(PMT)は、ニュートリノ観測でもよく知られている浜松ホトニクス製を採用。現行の光検出器では下向きに1つ内蔵している光電子増倍管を、D-Eggには2つ、上下に設置しています。これにより、チェレンコフ光の検出可能範囲が広がり検出効率を上げるとともに、感度の角度依存性を減少させ、光子の飛来方向の測定誤差を低減させることが可能になりました(図2)。

図2:D-Egg と IceCube DOM(現行のIceCube光検出器)の有効面積の比較図2:D-Egg と IceCube DOM(現行のIceCube光検出器)の有効面積の比較

【耐圧硝子容器】

光電子増倍管を格納する耐圧硝子容器は千葉県の岡本硝子株式会社に製造を依頼。埋設される際、光検出器には70MPa(深海7000m水圧相当)もの圧力がかかります。この高圧に耐えうる深海実験向けに開発された耐圧ガラスを基に、紫外線領域の透過度を改善し、放射線雑音の元となる不純物の少ない材料を用いた新型の容器を開発しました。

【シリコン】

光電子増倍管を耐圧硝子球に接着し、ニュートリノからの貴重な紫外光をもれなくセンサー感度面に送り届けるシリコンは、信越シリコーン社が特別開発しました。

【モジュール設計】

デバイス性能を最大限に活かすモジュール設計は、深海設置の地震計製作などに実績がある日本海洋事業株式会社(NME)の協力で施され、製造作業も同社が所有する福浦整備場にて行いました。

【製造ライン】

D-Eggの組み立てに必要な製造ラインは、不純物の混入を防ぐために用意されたクリーンブース内に整えられ、千葉大学グループ所属の研究者や大学院生がNMEの技術者と共に組み立てに従事しました。

【最終動作試験】

 南極点での稼働に問題がないかを判別するために、千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターが所有する特製の大型フリーザーを用い、温度的なストレスの耐性と同時に、低エネルギーと高エネルギーのニュートリノ検出に十分な性能が確保されているか最終動作試験を行いました。

図3:D-Egg検出器図3:D-Egg検出器

  • 今後の展望

2026年のアップグレード建設完成後の次世代ニュートリノ望遠鏡計画IceCube-Gen2は、2027年から約8年計画での建設を目指しています。IceCube-Gen2では、現在のIceCubeの約8倍の体積の氷河の中に約1万台の光検出器を埋設することで、宇宙ニュートリノ点源検出感度を5倍以上に向上。より多くのニュートリノ起源天体を同定することを目指します。既存のDOM光検出器を改良し、検証結果によりその機能の大幅な向上が認められた新型光検出器D-Eggは、今回のアップグレード計画で大きく実験に貢献するとともに、将来のアイスキューブ実験の拡張においても重要な役割を担います。

千葉大学グループは、引き続き日本の先端技術を駆使した光検出器や新たな解析手法の開発に取り組み、ニュートリノ起源解明を目指して研究に取り組んでいきます。

  • 用語解説

注1)ニュートリノ: これ以上小さく分けることができないと考えられている素粒子の一つ。電子の100万分の1以下の重さしかもたないとても軽い粒子で、電気を帯びておらず、そのため他の物質とほとんど反応せず、観測が非常に難しい粒子。電子型、ミュー型、タウ型と呼ばれる3種類が存在することがわかっている。

注2)「IceCube実験」「IceCubeアップグレード計画と次世代ニュートリノ望遠鏡計画IceCube-Gen2」については以下のHPにて詳細に説明しています。

IceCube実験 | ニュートリノ天文学 | 千葉大学 ハドロン宇宙国際研究センター
ハドロン宇宙国際研究センターの公式ページです。
IceCubeアップグレード&Gen2計画 | ニュートリノ天文学 | 千葉大学 ハドロン宇宙国際研究センター
ハドロン宇宙国際研究センターの公式ページです。

注3)現行のIceCube光検出器は、千葉市科学館でも展示されています。

(参考:https://www.kagakukanq.com/floor/10geo/

  • 研究プロジェクトについて

本成果は文部科学省 新学術研究(研究領域提案型)、特別推進研究、基盤研究(A)の科学研究費補助金の助成を受けたものです。

新学術研究計画研究A03 : 宇宙ニュートリノ観測の高精度化で探る標準理論を超える粒子信号

計画研究 実験・観測:ニュートリノで拓く素粒子と宇宙

特別推進 IceCube-Gen 2 実験で拓く高エネルギーニュートリノ天文学の新展開

IceCube-Gen2 実験で拓く高エネルギーニュートリノ天文学の新展開
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基盤(A): 新型光検出器で築く次世代南極ニュートリノ望遠鏡による深宇宙高エネルギー現象の解明

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ニュートリノによる宇宙観測は、ガンマ線や宇宙線では難しい深宇宙・高エネルギー現象の直接観測と、可視光やガンマ線といった電磁波望遠鏡とのマルチメッセンジャー観測の両方を可能とした。2011年に完成したIceCubeニュートリノ望遠鏡は、2012年の1PeVを超えるエネルギーを持つ宇宙ニュートリノの初検出から、より詳細な宇...
  • 論文情報

タイトル:D-Egg: a dual PMT optical module for IceCube

著者:IceCube Collaboration

雑誌名:Journal of Instrumentation

DOI:https://doi.org/10.1088/1748-0221/18/04/P04014

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