田中角榮の構想力と実行力に学ぶ
稀代の名宰相・田中角榮が敗戦後の日本の荒野に佇んで何を考え、どのような理想を思い描いたのか―その実相と実現に向けた具体策があますところなく本書には記されている。
大都市と地方の格差解消、高まる環境問題への対処、デジタル化の推進―
50年前に日本のグランドデザインを描いた『日本列島改造論』は、現代にも共通する多くの重要課題に具体的な解決策を提示している。
日刊工業新聞社(代表取締役社長:井水治博、本社:東京都中央区)は、書籍『復刻版 日本列島改造論』(田中角榮著)を3月18日に発売します。1972年(昭和47年)6月20日、首相就任目前の田中角榮通商産業相がまとめた『日本列島改造論』が小社より刊行されました。地方の過疎と大都市の過密を同時に解消するために、「国土の均衡ある発展」を掲げ、1970年代の「日本のかたち」をどのように描いていくか、その処方箋を豊富なデータと具体的な政策を交えながら提言した同書は、政治家本としては異例の91万部を超える大ベストセラーを記録。その復刻版を約半世紀ぶりに刊行します。
当時の日本と今日の日本では置かれた立場も目指すべき方向性もまったく異なります。しかし、この『日本列島改造論』をあらためてひも解いてみると、驚くほどの共通課題が見て取れます。①大都市と地方の格差解消、②高まる環境問題への対処、③デジタル化の推進―。帯には副題として「太陽と緑と人間と…」を掲げ、国民が安心して暮らせる住みよい、豊かな日本をつくる、としています。50年前の課題は現代を生きる私たちにとっても、相変わらずの「重要課題」なのです。
政治や経済が混沌とし、閉塞感に包まれている現在の日本にとって、この構想には、これからの国づくりのヒントとなりえる数々の示唆に富んだ内容が盛り込まれているともいえるのです。
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「過疎と過密」を同時解消
当時の課題の一つがインフラ整備。東京への一極集中とそれに伴う農村部の疲弊が社会問題化していた70年代、新幹線を中心とした高速鉄道や高速道路を地方に行き渡らせることで人口と産業の地方分散を実現、「過疎と過密」を同時解消することを鮮明に打ち出しています。
そのアプローチは理論的かつユニークです。過密対策では、都市機能の一部を担っていた工業を東京や大阪から追い出し、全国的な視野で再配分することを模索。特に知識と知恵が求められる「知識集約型産業」を内陸部に配置することを立案しています。知識集約型産業は、それまで日本を牽引してきた重化学産業と異なり、公害を出しにくい産業群であり、環境対策にもつながります。また工業を地方に分散させれば職が生まれ、自然と人口も増えます。人と産業が地方に移りやすくするために鉄道網や道路網を整備し、大都市と地方のアクセスを容易にする-というシナリオです。これが「国土の均衡ある発展」であり、田中角榮氏は「人と経済の流れを変える」と指摘しています。
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インターネット時代を予測したような記述も
『日本列島改造論』の中では強化すべき分野が具体的に提示されています。電子計算機、航空機、産業ロボット、海洋開発、情報処理サービス、システムエンジニアリング―。いずれも現在の日本経済を支える産業ばかりです。世界の自動車産業の中核になると見込まれる電気自動車(EV)開発の必要性も明記されているほか、ロボット産業の勃興もこの政策が原点といえます。
内容の半分程度は通産省の範囲ですが、あとは大蔵省や建設省、運輸省(いずれも当時)などで、通産省だけでなく各省庁の戦略を巧みに盛り込むことで、インフラ整備だけでない、新たな日本の産業像を描き出しています。
代表例が「情報ネットワークの構築」。「情報列島の再編成」という言葉を用いていますが、特筆されるのがインターネット時代を予測したような記述があることです。
「通産省で開発しようとしている映像情報システムでは、将来、一台のテレビ受信機で無線テレビも有線テレビも楽しみ、さらにテレビ受信機に組み込まれた鍵盤を操作すると、情報センターやデータバンクにつながって『日本の国土面積はどのくらいか』『IMF(国際通貨基金)とはどういう機関か』といった知識を求めることができる」(本文より)
デジタル全盛の今から50年も前の内容とは思えない大胆な発想が見て取れます。
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目次
『日本列島改造論』復刻にあたって
序にかえて
Ⅰ 私はこう考える
Ⅱ 明治百年は国土維新
Ⅲ 平和と福祉を実現する成長経済
Ⅳ 人と経済の流れを変える
Ⅴ 都市改造と地域開発
Ⅵ 禁止と誘導と
Ⅶ むすび
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書籍情報
定価:(本体1,800円+税)
仕様:四六判、並製、248頁
ISBN:978-4-526-08270-2
発行:日刊工業新聞社
発行日:2023年3月18日
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著者紹介
田中 ⻆榮
(たなか かくえい)
大正7 . 5 . 4 新潟県刈羽郡西山町大字坂田1540番地に父角次、母フメの二男として生まれる
昭和11. 3 .24 中央工学校土木科卒業
18.12. 1 田中土建工業株式会社創設
22. 4 .25 第23回衆議院総選挙で初当選 28歳
32. 7 .10 郵政大臣就任(第1次岸内閣)39歳
36. 7 .18 自由民主党政務調査会長就任
37. 7 .18 大蔵大臣就任1期目(第2次池田内閣)44歲
38.12. 9 大蔵大臣留任2期目(第3次池田内閣)
39.11. 9 大蔵大臣留任3期目(第1次佐藤内閣)
40. 6 . 3 自由民主党幹事長就任1期目
41. 8 . 1 自由民主党幹事長留任2期目
43.12. 1 自由民主党幹事長留任3期目
45. 1 .12 自由民主党幹事長留任4期目
12.29 自由民主党幹事長留任5期目
46. 7 . 5 通商産業大臣就任(第3次佐藤内閣)
47. 7 . 5 第6代自由民主党総裁就任
7 . 6 第64代内閣総理大臣就任 54歲
7 . 7 第1次田中内閣成立
12.22 第2次田中内閣成立
平成 2. 1 .19 政界引退表明
5.12.16 入寂 享年75歲
※衆議院勤続44年(当選17回)、議員立法117本
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