ご自身の知見や科学的根拠、そして水の森の手術方法を踏まえ、安全・安心に効果的な脂肪吸引を行うために大切なことは何なのか。
水の森美容クリニック東京銀座院 竹村院長に解説していただきました。
- 今では脂肪吸引は身近な手術に。しかし、リスクも同時に高まっている。
脂肪吸引は日本でも非常にメジャーな手術になっています。
日本美容外科学会(JSAPS)の統計では、主な美容外科施術の中で施術件数第7位に脂肪吸引がランクインしています(図1)。
ただ、施術件数が増える一方で脂肪吸引はもちろん、その他の施術に関してリスクも高まっているということも事実です。
と言いますのも、日本の美容医療は自由診療ですよね。
アメリカのFDA(アメリカ食品医薬品局)のようなに規制が無いため、海外では未承認の機器が簡単に導入されたり、ヒアルロン酸豊胸のように危険性の高さから海外では禁止されているような治療法1)が国内で蔓延しています。
美容外科医になる以前に、私が所属していた循環器科は医学の各診療科の中でもEBM(Evidence Based Medicine; 科学的根拠に基づいた医療)という考え方が深く浸透していました。
1つの薬を処方する際に、数多くの臨床研究や論文を参考に処方をするのが基本でした。
そのような経験を踏まえると、現在の美容医療業界の兆候には違和感を覚えています。
- EBM(科学的根拠に基づいた医療)に基づいた脂肪吸引へのこだわり
この記事をご覧の皆様や今まさに脂肪吸引をご検討されている方に、水の森で行っている脂肪吸引の手術方法や術前後のケアを、科学的根拠に基づいてご紹介させていただきます。
また、最近話題となっているベイザー(VASER⦅体内超音波式))脂肪吸引やレーザー式脂肪吸引といった脂肪吸引法と、シリンジ式脂肪吸引法の違いや効果の差についても、臨床試験結果などを参考にフラットな視点からご説明させていただきたいと思います。
前提として、脂肪吸引は重大な合併症を引き起こすリスクがある手術ですが、適切な処置と手技、術後のケアを徹底することで安全に行うことができ、合併症のリスクも取り除けます。
そのためにも当院では術前診断を重視しています。
具体的には、BMI30以上の方は麻酔科管理、脂肪吸引量も最大5Lまで2)とし、5Lを超えそうな患者様は手術を2回に分けたり、1つの部位の吸引量を控えめにする、など対応しております。
また、手術前の採血で糖尿病がある方、高度の肝腎機能の異常がある方などについては、原疾患の治療を優先してからの施術を提案しています3)。
- 身体への負担を減らす麻酔と安全で確実な吸引手技
手術中は静脈麻酔を行い、無痛での手術を心掛けています。
当院の適切にモニター管理された静脈麻酔による脂肪吸引は、安全性が確立されており、重大な合併症である肺塞栓症などのリスクについても、十分にコントロールできております。
加えて、静脈麻酔とは別に「チューメセント麻酔」という、薄めたエプネフリン(血管の収縮を促して出血を抑える作用があります)入りの局所麻酔薬の注入を併用しております5)。
この麻酔薬の使用により、脂肪が軟らかく“ふやけた”状態となるため出血も少なく、安全に効率よく脂肪を吸引することが可能になります。
さらに術中、術後の痛みの軽減に加えて、皮膚感覚の早期回復にも寄与します6),7)。
また、静脈麻酔の使用量も減らすことができるため、日帰りの脂肪吸引手術を安全に行うことが可能になります。
当院では、最も一般的な手作業による脂肪吸引を主に行っております。
(水の森では、クリスクロス法・リサーフェイシング法を用いております)
脂肪吸引が最も盛んで、患者様の体格も日本人より大きいアメリカでも、51%の医師が手作業の脂肪吸引法をおこなっております8)。
レーザー式脂肪吸引9)やパワーアシスト型脂肪吸引などの新しい手法による器具も出てきていますが、いずれも従来の脂肪吸引に勝る効果は出せておらず、火傷、術後瘢痕などの新しい器具特有の合併症も高頻度に報告されております。
- 合併症・感染症のリスクも限りなく0へ
まず、脂肪吸引による合併症の頻度自体は非常に低いと報告されており、死亡率に関しても0.02%以下となっております13)。
そして、当院で死亡事故は開院以来1度も起きておりませんので、皆様にご安心していただけるポイントかと思います。
一方で、具体的な脂肪吸引による死亡事故の原因としては、腹腔内臓器損傷、肺塞栓、脂肪塞栓、リドカイン中毒、感染(壊死性筋膜炎)が報告されています。
このうち、腹腔内蔵器損傷に関しては、術前にヘルニアや腹部手術歴の見落としや医師の技術が原因とされています。
当院では術前のカウンセリングや検査を確実に行うことで、見落としを防いでいます。また、モニター制度などを通して医師の技術を十分に確立してから施術を担当するため、安全な脂肪吸引が実現できています。
その他に、注意が必要なのは深部静脈血栓症、肺塞栓症(エコノミークラス症候群)、脂肪塞栓症といった合併症です。
肺塞栓症に関しては、脂肪吸引特有の合併症ではなく、全身麻酔を行うすべての手術で共通する合併症となります。
このような合併症の対策として、当院では弾性ストッキングの着用に加えて、術前にリスクの高い患者様に対して、必要であれば手術の中止や麻酔科医師の管理を行っております。
また、脂肪塞栓症に関しては大量の脂肪吸引量や手術時間の長さがリスクの要因となるため、事前に脂肪吸引量が5Lを超えることが予測される患者様に対しては、施術を2回に分ける、1部位の吸引量を控えめにするなどの対応しております2)。
さらに、局所リドカイン中毒に関しても先ほどご紹介した「チューメセント麻酔」5)を行うことで、適量の麻酔濃度の維持に努めておりますので起こる可能性は、限りなく低くなります。
リスクを完全に0にすることは難しいですが、限りなく0に近づけるための処置とリスク管理を水の森全体で徹底していますね。
加えて、術後感染症の発症が抑えられることが報告されている13)術前の抗生剤投与を感染症対策として行っています。
術後のボコボコ感の予防14)のため圧迫着を着用していただいています。さらに、手術直後は傷口の縫合は行わずにドレーンという吸引部位の液体などを外に出す器具を挿入して、翌日にドレーン抜去と傷口の縫合を行います。
よって、むくみの軽減や圧迫効果の増強が期待できます。15)
ダウンタイム中には、吸引部位に水がたまることがありますので、穿刺(せんし)吸引を行うことで表面の凸凹を予防しています。
- ベイザー脂肪吸引は費用対効果に疑問が残る
近年ではベイザー(VASER⦅体内超音波式))による脂肪吸引の人気が高まり、流行していると言えます。
ですが、現時点では(当院でおこなっている)従来型の手作業で行う脂肪吸引法は、VASERなどの新しい脂肪吸引法と比較して、十分なエビデンスが蓄積しており、費用対効果からみても総合的に最も優れた脂肪吸引法の一つと考えています。
そのように考えるうえで、私が注目しているのは、ベイザーの業者がスポンサーした「一重盲検化比較試験(患者様には手術をしたかが伏せられている)」の結果と論文です。
この論文の中では、皮膚の引き締め効果と出血量においては、ベイザー脂肪吸引に優位性が認められたものの、患者様が実感する脂肪吸引自体の効果や痛み、むくみなどの術後経過については、全く有意差が認められませんでした10)。
ベイザー脂肪吸引は、一定の効果があることは証明されておりますが、費用対効果(高い料金を支払うに見合うだけの価値があるか)については疑問が残る結果となっています11),12)。
- 脂肪吸引においても科学的根拠に基づいた治療を
ベイザー脂肪吸引に関する臨床試験ですね。Nagyらによる従来の脂肪吸引との比較試験があります10)。この試験では20人の患者で腕、背中、側腹部、大腿の計33部位に対する脂肪吸引を行っています。
片側を従来型の脂肪吸引で、反対側をベイザー脂肪吸引で行うという方法で、施術を受けた患者さんにはどちらがベイザー脂肪吸引で行なっているかは伝えずに行う臨床研究(一重盲検化比較試験)です。
この研究結果では、皮膚の引き締め効果と出血量がベイザー脂肪吸引の方が優れていることが示されました。
皮膚の引き締め効果に関しては、術前に一辺5cmの二等辺三角形を施術部位に施し、その三角形の全周がどれだけ小さくなったかで比較しています。
詳しい個々のデータの記載が無く詳細は不明ですが、術後6ヶ月の時点でベイザー脂肪吸引が17%の引き締め効果であるのに対し、従来の脂肪吸引では11%の引き締め効果(p = 0.003)*でした(図2・3)。
また、出血量に関してはベイザー脂肪吸引が、吸引量100ccあたり11.2ccであるのに対し、従来の脂肪吸引が14ccという結果でその差(p = 0.019)*が出ています(図2)。
一方で、術後の患者様、そして手術を担当した医師の満足度は双方で差がなく、術後の経過(痛み、鈍痛、感覚異常、むくみなど)に関しても全く差はないという結果でした。
*統計の有意差では、p=0.05以下で有意差ありとされています。
10) Nagy MW, Vanek PF Jr. A multicenter, prospective, randomized, single-blind, controlled clinical trial comparing VASER-assisted Lipoplasty and suction-assisted Lipoplasty. Plast Reconstr Surg. 2012 Apr;129(4):681e-689e.
- 論文やデータ自体の信頼度にも目を向ける必要がある
やはりベイザー脂肪吸引の方が効果があるのかというと、実際そうとは言い切れません。
この論文にはいくつか問題点が指摘されているからです。12),13)。
まず1つ目がサンプルサイズについてです。
サンプルサイズとは、簡単に言うとどれだけの方で検証を行ったかです。
今回の臨床研究では、20人で33部位の比較のみのため、より多くの研究結果からではないと、正確な統計的比較が難しいからです。
2つ目に、従来の脂肪吸引とベイザー脂肪吸引では、脂肪吸引量にそもそも差があって単純比較できない点です。
それぞれの平均脂肪吸引量は、従来の脂肪吸引が757ccに対し、VASERが702ccです。平均で約50ccの吸引量の差があり、統計学的にも7.9%従来の脂肪吸引の方が吸引量が多い(p= 0.04)*ことになります。
(原著論文では計算ミスがあり、過小評価されています)
*統計の有意差では、p=0.05以下で有意差ありとされています。
吸引量が違う時点で皮膚の引き締め効果も単純比較ができなくなります。
また、吸引量が多いということはそれだけ組織の傷害量も多いため、自然と出血量が多くなってしまいます。
正確な比較を行うためにも、吸引量を同じにしたうえで比較するべきではなかと考えられます。
最後に、論文の記載者がベイザーの業者と利益相反があるという点です。
この論文自体がベイザーの業者がスポンサーした論文で、論文執筆者もベイザーの宣伝を当初から行なっていた医師でした。
そのためコマーシャルバイアスがあり、公平性がやや劣ることが指摘されています。
- 患者様が正しい知識を持って、適切な治療を受けられるための一助に
ベイザー脂肪吸引自体は良い治療法の一つであると思いますが、仰る通り費用対効果に関してはじっくり考えてみる必要があると思います。
整理すると、ベイザー脂肪吸引は皮膚の引き締め効果や出血量に関しては、現時点で従来の脂肪吸引に対する優位性は示されています。
ただ、その差はわずかで統計学的な差は出ているものの、患者様自身が自覚する術後の効果や経過には、全く差が出ていないことも事実です。
(統計学的に差はあるものの、実臨床ではほぼ意味のないレベルの差)
実際に、今回ご紹介した論文に対するletter (論文著者に対する建設的意見を記載したもの)でも、現時点でベイザー脂肪吸引が従来の脂肪吸引に勝っているとは言えないことが言及されています。
脂肪を取り除くための方法として、ベイザー脂肪吸引も良い治療法である。
でも、従来の脂肪吸引よりも良い治療法とは言いきれない。
ということをご理解いただければと思います。
患者様においても脂肪吸引を検討される際には、その僅かな差が高額な費用に見合うだけの効果かどうかをご自身で判断していただく必要があると思います。
より正しい知識に基づいて、美容医療を普及させたいという想いを常に持って、さまざまな情報収集を行い、日々の診療にあたっています。
残念ながら、医師も人間であり新しい機器などが出ると好奇心から試したくなります。
しかし、医療に携わる者としては、さまざまなデータを基に客観的な判断を行う必要があります。
費用対効果を含め適切に見極めたうえで、患者様にとって最適な治療をご提案しています。
水の森美容外科では、脂肪吸引を安全・安心、そして効果的に患者さんにお届けするため、日々の研鑽に努め、科学的根拠(EBM)に基づいたプロトコールの作成、手技の向上に努めて参ります。
参考文献
1) US Food and Drug Administration, Dermal Filler(s Soft Tissue Fillers)
2) Haeck PC, Swanson JA, Gutowski KA, et al. Evidence-based patient safety advisory: liposuction. Plast Reconstr Surg. 2009 Oct;124(4 Suppl):28S-44S.
3) Liu J, Ludwig T, Ebraheim NA. Effect of the blood HbA1c level on surgical treatment outcomes of diabetics with ankle fractures. Orthop Surg. 2013 Aug;5(3):203-8.
4) Bitar G, Mullis W, Jacobs W, et al. Safety and efficacy of office-based surgery with monitored anesthesia care/sedation in 4778 consecutive plastic surgery procedures. Plast Reconstr Surg. 2003 Jan;111(1):150-6; discussion 157-8.
5) Klein JA. Tumescent technique for regional anesthesia permits lidocaine doses of 35 mg/kg for liposuction. J Dermatol Surg Oncol. 1990 Mar;16(3):248-63.
6) Perry AW, Petti C, Rankin M. Lidocaine is not necessary in liposuction. Plast Reconstr Surg. 1999 Nov;104(6):1900-2
7) Matarasso A. Lidocaine in ultrasound-assisted lipoplasty. Clin Plast Surg. 1999 Jul;26(3):431-9
8) Matarasso A, Levine SM. Evidence-based medicine: liposuction. Plast Reconstr Surg. 2013 Dec;132(6):1697-1705.
9) Prado A, Andrades P, Danilla S, et al. A prospective, randomized, double-blind, controlled clinical trial comparing laser-assisted lipoplasty with suction-assisted lipoplasty. Plast Reconstr Surg. 2006 Sep 15;118(4):1032-1045.
10) Nagy MW, Vanek PF Jr. A multicenter, prospective, randomized, single-blind, controlled clinical trial comparing VASER-assisted Lipoplasty and suction-assisted Lipoplasty. Plast Reconstr Surg. 2012 Apr;129(4):681e-689e.
11) Matarasso A. Discussion: a multicenter, prospective, randomized, single-blind, controlled clinical trial comparing VASER-assisted lipoplasty and suction-assisted lipoplasty. Plast Reconstr Surg. 2012 Apr;129(4):690e-691e.
12) Swanson E. Improved skin contraction after VASER-assisted lipoplasty: is it a change we can believe in? Plast Reconstr Surg. 2012 Nov;130(5):754e-756e.
13) クレ カツヒロ・ロバート. 脂肪吸引の合併症・後遺症と処置. PEPARS 2015 No.99: 162-167.
14) Chia CT, Neinstein RM, Theodorou SJ. Evidence-Based Medicine: Liposuction. Plast Reconstr Surg. 2017 Jan;139(1):267e-274e.
15) Toledo LS, Mauad R. Complications of body sculpture: prevention and treatment. Clin Plast Surg. 2006 Jan;33(1):1-11, v.
- 水の森美容クリニックについて
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「患者様中心主義」を理念に、高い医療技術の実現と医師の技術統一の確立をもとに、利益ではなく患者様の立場で最適な治療と満足をご提供していきます。
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