- 感染症の予防接種が必須
ソマリアからダダーブ・キャンプに到着した人の多くが、最近はしかやコレラが流行しているソマリア南部からやってきている。人びとがソマリアを離れるのは、深刻な干ばつ、暴力、長年続く紛争といった背景がある。
ケニアでMSFの副オペレーション・マネジャーを務めるアドリアン・グアダラマは「ソマリアの予防接種率は低い上に、ケニアに新たに到着した人びとのスクリーニング検査を行う体制が整っていないので、キャンプやその周辺に住む人びと、特に子どもたちの間に感染症が急速に広まるリスクが高まっています。清潔な飲料水が乏しく、衛生環境が悪い過密なキャンプでは、はしかやコレラの感染者が少数で散発的にみられた場合でも、大流行につながる可能性があるのです」と懸念を示す。
先週、MSFのチームは、ダダーブ・キャンプを構成する3つのキャンプのうちの一つであるダガレイで、3人のはしか患者と2人のコレラの疑いがある患者を記録した。ダダーブ・キャンプで過去に行われたはしかの予防接種により、もともとキャンプにいる子どもたちはある程度守られるものの、新たに到着した人は予防接種を受けていない可能性が高く、命取りになる事態が予想される。コレラに関してはケニアの6つの郡で発生が続いていることから、ワクチン接種などの予防策の強化がより重要になる。グアダラマは「MSFは、ダガレイ・キャンプで必要な予防接種開始を支援する準備ができています」と話す。
- 増え続ける難民、生活環境への懸念
MSFの健康教育チームは、ダガレイに新しく到着した人を積極的に探し出し、病気の検診を行い、早急に治療が必要な人びとの搬送を手配している。しかし、新しく到着した人を特定し、管理する体制がないため、この作業は非常に難しく、人道援助へのアクセスをさらに遅らせている。
MSFのアウトリーチ活動チーム(※)が収集したデータによると、ソマリアからダガレイへの到着者だけでも、8月から9月にかけて倍増し、800人を超えた。この数字は、今後数週間から数カ月間にわたり、着実に増え続けるものと予想される。新しく到着した人の多くは、仮住まい、食料、安全な飲料水、トイレが必要だと話している。
※アウトリーチ活動:医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動。
既にダガレイに住んでいる難民は、新しく来た人びとを受け入れ、限られた資源を分け与えているが、個々の好意だけに頼っていては、持続可能な解決策とは言えない。さらに、キャンプ内で社会的なつながりが弱い人は、周辺部で暮らすしかなく、食べ物も手に入りづらい上に、嫌がらせや暴行に遭いやすい。
- 人道援助の規模拡大を
グアダラマは「キャンプや周辺地域の人道状況はまだ限界点に達していないため、予防措置を強化し、既に長期化している危機に緊急事態が重ならないようにするチャンスはまだ残されています。UNHCR、資金拠出者、ケニア政府のすべてが緊急性を認識し、ケニアに入国する人びとに尊厳ある受け入れとスクリーニング検査体制を整える必要があります。新規入国者の検査なしに予防接種だけを行っても効果はほとんど上がりません」と指摘する。
また、新たに到着した難民に加え、長年キャンプに暮らす難民、そして干ばつのために苦しんでいる地域住民のニーズに対応するために、人道援助の規模を拡大する必要がある。同時に、準備と緊急対応策を講じる中で、難民のための耐久性のある解決策を見出す必要性も忘れてはならない。
「キャンプに到着した人びとの多くは、トラウマになるような旅をしてきました」とグアダラマは話す。「途中で家族を亡くした人も、暴力を振るわれた人もいます。多くの人が経験したストレスや苦しみ、心の傷を見過ごすわけにはいきません。受け入れ関係者には心のケアを対応に組み入れることが求められているのです」
ダダーブには現在、難民登録を済ませた人23万3000人以上が暮らし、その多くは30年以上キャンプで生活している。MSFは、30年にわたるキャンプの歴史のほとんどにおいて、ダダーブとその周辺で医療活動を展開。MSFの現在のプログラムは、ダガレイ・キャンプに焦点を当てており、簡易診療所2カ所と、92床の病院を通じて、難民と地域住民を対象に基礎医療と専門医療を含めた総合的な医療を提供している。MSFの診療は、産科緊急手術を含むリプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)、性別・ジェンダーに基づく暴力に対する医療と心のケア、在宅インシュリンケア、緩和ケアなど。 |