現代医療(西洋医療)は限界に近づいており、抜本的な改革が必要です。現代医療では、病気の原因と治療法は「一対一の関係」にあると言われています。また、現代医療は、万病の元である慢性炎症をコントロールできません。水素は現代医療の概念の外にある新しい医療ガスです。水素が有効性を示す酸化ストレスとそれに関連した慢性炎症は、多くの病気の根源であり、体内に取り込まれた水素はその拡散力により全身の臓器や細胞に行き渡るので、同時進行的に多くの病気を治すことができます。そして、そして薬と違い副作用が全くないので、限りなく送り込むことができます。そのため、水素は「機関銃療法」と言えます。これに対し現代医療は、単発で標的を狙い定めるところから「ライフル銃療法」と言えます。
本論文は、2022年9月28日(欧州時間)にオランダを拠点する医療ガスに関する国際医学専門誌「Medical Gas Research」のオンライン版に掲載されました。
現代医学(西洋医学)では、人体を臓器の集合体として捉え、その対象物に対して微細な分析を行います。研究対象を臓器から細胞へ、次に分子へ、そして遺伝子へと細分化し、病気に最も影響を与える要因を特定します。薬は、一つの因子(酵素、受容体、遺伝子など)に作用して病気を改善するように設計されます。このような現代医学の手法を「要素還元主義的アプローチ」と呼びます。現代医学では、病気の原因と治療法には「一対一の関係」があると言われています。しかし、多くの病気の原因は単一の要因だけではなく、複数の要因によって引き起こされます。従って、現代医療は単一射撃でしか標的を撃つことができないので、「ライフル銃治療」と呼ぶことができます。
病気の根源としてのヒドロキシルラジカル
ヒトの成人は、安静時に大量の酸素を消費しています。しかし、活性酸素種(注1)の産生と消去のバランスが崩れた結果、様々な活性酸素種が形成され、生体に悪影響を及ぼします。この活性酸素種には、スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル等が含まれます。その中で、ヒドロキシルラジカルはスーパーオキシドや過酸化水素に比べて強力な酸化力を持ち、核内DNAを酸化しますので「悪玉活性酸素」と呼ばれています。また、これらの活性酸素種の発生源であるミトコンドリア(注2)は常に高濃度のヒドロキシルラジカルに晒されており、ミトコンドリアのDNA損傷や細胞死の原因となっています。
水素は哺乳類細胞内では代謝系を持たず、生体物質と相互作用しない不活性分子ですが、ミトコンドリア内部で発生するヒドロキシルラジカルと反応する分子です。また、水素とヒドロキシルラジカルの反応生成物は水分子であり、水素は我々の腸内細菌でも産生されていますので、水素による副作用は多くの臨床試験では観察されていません。我々は過去に水素はミトコンドリアに入り、ヒドロキシルラジカルから水素の引き抜き反応を受ける唯一の分子であることを論文として報告しました。このように、水素はヒドロキシルラジカルによる細胞毒性から細胞を守ることができます。
慢性炎症におけるヒドロキシルラジカルの関与
多くの病気に慢性炎症が関与しているため、「慢性炎症は万病の根源」であると言っても過言ではありません。現代医療は、急性炎症疾患をコントロールすることはできても、慢性炎症疾患をコントロールすることはできません。炎症は、白血球の一種の細胞が産生する炎症性サイトカイン(注3)を放出することで誘発されます。軽度の炎症が長引くと、生体にダメージを与え、慢性炎症を誘発します。最近の研究では、ミトコンドリアが炎症性サイトカインの産生に重要な役割を果たしていることが分かってきました。また、ミトコンドリア関連の活性酸素がNLRP3と呼ばれるインフラマソーム(注4)を活性化し、その刺激が炎症性サイトカイン産生の引き金となることも報告されています。
炎症モデル動物における水素の効果は、ミトコンドリアの酸化抑制とNLRP3インフラマソーム活性化抑制のメカニズムに基づいていることがいくつかの文献で示されています。水素のようなミトコンドリアに選択的なヒドロキシルラジカル消去剤は、NLRP3 インフラマソームの活性化につながるカスケード(注5)をブロックすることができます。水素は慢性炎症疾患や多くの関連する疾患の根治に有効です。
結論
本論文では、多くの病気の根源がヒドロキシルラジカルによるミトコンドリアの酸化ストレスであると同時に慢性炎症の根源もヒドロキシルラジカルに起因していることを示しました。そして、水素医療が現代医療に取って代わる新しい医療であることを示しました。水素は病気の根源に働き、多くの疾患を同時に治療することができますので、水素の医学的応用はまさに「機関銃療法」と呼ぶことができます。
論文
英文タイトル: The conventional drug acts as a “rifle gun” while hydrogen as a “machine gun”.
タイトル和訳:従来の薬は「ライフル銃」として働くが、水素は「機関銃」として働く
著者名:平野伸一1、市川祐介1、佐藤文平1、武藤佳恭2、佐藤文武1
所属:1 MiZ株式会社、2 武蔵野大学・データサイエンス学部
掲載誌:Medical Gas Research, 13 (2), 89-91, 2023
DOI: 10.4103/2045-9912.344982
[用語解説]
(注 1)活性酸素種:空気中の酸素が反応性の高い化合物に変化したものの総称で、一般的には(狭義には)スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素の4種とされている。
(注 2)ミトコンドリア:真核生物の細胞小器官である。二重の生体膜からなり、独自のDNAを持ち、分裂、増殖する。ミトコンドリアはATP合成(エネルギー合成)以外の生命現象にも関与する他、酸素呼吸の場として知られている。
(注 3)炎症性サイトカイン:サイトカインとは、主に免疫細胞から分泌される蛋白質で、細胞間の情報伝達を担っている物質である。サイトカインの中でも炎症症状を引き起こすものを炎症性サイトカインと呼ぶ。
(注 4)インフラマソーム:複数のタンパク質からなる複合体で、細胞質内の異物(病原微生物成分や尿酸結晶など)を宿主細胞に対する危険シグナルとして認識し、細胞内のシグナル伝達を介して炎症性サイトカインの遊離を行い、炎症反応の誘導や進展に重要な役割を果たす。
(注 5)カスケード:元々は数珠つなぎの意味である。細胞の中の反応が「数珠つなぎ」の様に次から次へと起こることを表した言葉である。