本研究成果は、2023年9月8日14:00(U.S. Eastern Time)にオンライン電子版として、American Association for the Advancement of Science によって発行された査読済みの学際的なオープンアクセス科学ジャーナルScience Advancesで公開されました。
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研究の背景
超伝導は「抵抗がゼロ」の状態で電流を流すことができます。抵抗なく電気が流れるということは「発熱ゼロ」です。この超伝導は、夢の超省エネ材料として、リニアモーターカーなどに使われています(図1)。
この超伝導物質に磁場をかけると、どうなるでしょうか?磁場は超伝導物質の中に入れません。ところが、磁場の磁力を強めていき、ある磁場(=臨界磁場)よりも強い磁場をかけてしまうと、磁場が超伝導の中に入ります。そして、その瞬間に超伝導物質は普通の金属に変わります。この臨界磁場は1913年にヘイケ・カメルリング・オネス博士によって発見されました。
オネス博士は、鉛(Pb、転移温度7.2K(ケルビン))線をコイル状に巻いて電磁石を作り、強力な磁場を発生させようと試みました。すると、ある電流までしか電流が流せなかったことから、臨界磁場を発見しました(1913年 ノーベル物理学賞)。臨界磁場で超伝導から金属に変わる鉛は「第一種超伝導体」と呼ばれます(図2上部)。
一方、超伝導物質でも、ニオブ(Nb)は不思議なことに、臨界磁場を超えてもすぐに金属になりません。磁場がニオブの中に侵入し筒状に超伝導内を貫きます(図2下部)。貫いた内部だけが金属になります。これを「第二種超伝導体」と呼びます。
本研究では、これまで100年もの間「第一種超伝導」と思われてきた「鉛」が、超低温では「第一種超伝導」ではなく、「第二種超伝導」のように磁場が筒状に鉛を貫いていることを初めて発見しました。
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研究の成果
走査トンネル顕微鏡(STM)は原子レベルまで尖らせた探針で試料表面をなぞるようにすることで物質表面を原子分解能で観察できる顕微鏡で、原子より小さい1pm(ピコメートル=10-12メートル)の精度で、物質の電子状態を計測できます。
本研究では、「第一種超伝導」材料として広く使われている「鉛 (Pb)」を試料として使用しました。また、45 mK 以下(マイナス273.105℃)の超低温環境、かつ宇宙空間と同じ空気のない超高真空環境で実験を実施しました。この条件下で、約0.02 T (テスラ)の磁場を鉛試料にかけました。すると、図3のように、STM電子分光像中に、青色の円(vortexと呼びます)として、鉛を貫く磁場を計測することに成功しました。図3Aは表面形状像です。表面にだんだん畑のように鉛の表面の原子テラスが広がっています。図3Bは同じ場所で得た電子分光像です。青色の場所が金属、黄緑色の場所が超伝導です。なお図3の結果は、論文のサプリメンタルインフォメーションに記載されています。
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今後の展望
本研究により、1913年からこれまで「第一種超伝導」と考えられてきた「鉛」は、45 mK以下の超低温では「第一種超伝導」ではないことを発見しました。超伝導の新たな理解を深めることで、未来の超伝導開発につながると期待しています。
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研究プロジェクトについて
本研究は、以下の研究課題の支援を受けて行われました。
村田学術振興財団助成金
“超伝導基板上でのSTM磁性原子操作によるマヨラナ粒子の発現メカニズム解明”
研究代表者 山田豊和
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論文情報
タイトル:Band resolved Caroli-de Gennes-Matricon states of multiple-flux-quanta vortices in a multi-band superconductor
著者:Thomas Gozlinski, Qili Li, Rolf Heid, Ryohei Nemoto, Roland Willa, Toyo Kazu Yamada, Jorg Schmalian, and Wulf Wulfhekel
雑誌名:Science Advances
DOI: 10.1126/sciadv.adh9163