■背景と概要:動物のX線画像の骨の除去について
獣医師は人間の医者とは異なり、様々な専門領域にまたがって、多岐にわたる医療行為を一人で行う必要があります。人間の医療界における医療行為が専門ごとに分化されているのとは対照的に、獣医師には包括的なスキルと知識が求められます。X線画像の読影という専門的なスキルについて言えば、全ての獣医師が豊富な経験を持つわけではありません。そのため、動物のX線画像から骨を除去するという技術は、獣医師の診断を助ける有用な手段となります。
人間のX線画像における骨除去において、ニューラルネットワーク等の機械学習の手法を使用する場合、通常、同一人物で同一の姿勢の “骨ありX線画像” と “骨なしX線画像”のペアのデータセットをもとに行われます。しかし、犬や猫などの動物の骨除去の場合、同一の姿勢を取り続けることが困難であるため、”骨なしのX線画像” が得られないケースが存在します。この課題を解決するため、骨除去の正解となる “骨なしのX線画像” が得られない状況で骨除去を行う技術を開発する必要がありました。
■開発成果
リッジアイと北大動物医療センターによる共同研究チームは、X線画像以外の医療画像を適切にX線画像と融合することで、”骨なしのX線画像” が欠如している状況でも、骨除去を行う機械学習モデルの開発に成功しました。
この技術により、獣医師がX線画像の読影を行う際に、骨以外の組織や病変に焦点を当てやすくなります。これは、獣医師の診断精度を向上させることにつながります。さらに、より早期の病気発見や治療に寄与することができます。特に胸部X線からの骨除去は、心臓疾患や呼吸器系の疾患など、様々な病状の診断に重要な役割を果たすことが期待されます。
■北海道大学動物医療センター 新坊弦也様のコメント
「本邦では獣医師の専門医制度が十分に整備されていないことから、AIによる診断支援の需要は大きいと考えられます。それにも関わらず、人間の医学とは異なり、獣医学領域では画像診断AIの社会実装がほとんど実現していません。私は画像診断学を専門とする身として歯がゆい思いを募らせていました。今回の共同研究の成果は、単に臨床的有用性が期待されるというだけのものではなく、獣医学における画像診断研究の潮流を作る可能性すら秘めたものであると考えられます。」
■今後の展開
リッジアイと北大動物医療センターは、今後もこの技術のさらなる研究と開発を進めていく予定です。これまで、猫の正面図のX線画像の骨除去技術の開発に成功しています。今後、猫の側面図への適用、さらには他の動物への適用も視野に入れ開発を継続し、本技術をより広範な状況で活用できるようにする予定です。
北海道大学動物医療センターについて
北海道大学動物医療センターは、北海道大学大学院獣医学研究院・獣医学部の教育・研究施設です。
多彩な動物達と私達との幸せな共生を目指して、高度で信頼される総合的獣医療の実践と探求心にあふれた信頼される獣医療人を育成する施設として、獣医療体制の確立と設備の充実に努めます。
名称:北海道大学動物医療センター
設立:1912年(明治45)に家畜病院として開設。2013年(平成25)に動物医療センターに変更
所在地:北海道札幌市北区北19条西10丁目 北海道大学
代表:病院長 滝口 満喜
株式会社Ridge-i(リッジアイ)について
リッジアイは、AI・ディープラーニング技術を活用したソリューションにより、経営・社会 課題の解決に挑む国産のテックイノベーションファームです。特に、画像解析ディープラーニング、センサーによる異常検知AI、最適化AIなど様々なデータに対応するAIを組み合わた「マルチモーダルAI」に強みを持ちます。戦略策定から要件定義フェーズに始まり、現場のコンサルテーションから開発・運用保守まで、投資対効果を実感するまで一気通貫で伴走し、これまでにもごみ焼却運転の自動化AIや、物流倉庫のレイアウトを自動でデザインするAI「ALPS」など、多くの実績をあげています。また社会課題にも積極的に取り組んでおり、SDGs課題と環境変化を衛星画像から発見する「GRASP EARTH」などで第4回、第5回宇宙開発利用大賞を連続受賞しました。今後とも技術とビジネスの高みを追求し、社会・顧客が持続的に効果を実感できる最高峰のソリューションを提供します。
会社名:株式会社 Ridge-i
設立:2016 年 7 月
所在地:東京都千代田区大手町 1-6-1 大手町ビル 438
代表:代表取締役社長 柳原 尚史
資本金:365,650,000円
事業内容:
①AI・ディープラーニング技術のコンサルティングおよび開発
②共同事業、ライセンス、保守モデル、自社開発等によるプロダクトの提供
③人工衛星データAI分析サービスの提供