一方、消費における二次流通市場のシェアが拡大を続けると、従来の一次流通市場のデータだけでは消費の動向を正しく把握することが難しくなると考えられます。また、二次流通市場の動向も把握しようとも、現在は中古住宅、中古車及び一部製品を除き、適切なデータを取得する手法が確立されていませんでした。
このような背景を受けて、株式会社メルカリは、月間利用者数2,000万人超のフリマアプリ「メルカリ」を活用し、消費者行動に関する情報発信、研究活動の活性化に貢献することを目的に、東京大学エコノミックコンサルティング(UTEcon)並びに同社取締役、東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授 渡辺安虎氏と共同で、「メルカリ」で取引される商品群の価格・流通量変動を可視化する「メルカリ物価・数量指数」※3を開発し、情報の提供を開始しました。これに伴い、「メルカリ物価・数量指数」提供の狙いについて説明する発表会を5月16日(月)に開催しました。
※1:リサイクル通信リユース業界の市場規模推計2021(2020年版)https://www.recycle-tsushin.com/news/detail_6396.php
※2:2022年4月15日 株式会社メルカリ 「物価上昇に伴う生活防衛」に関する調査 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000154.000026386.html
※3:2022年4月16日 株式会社メルカリ 「メルカリ物価・数量指数」の提供を開始https://about.mercari.com/press/news/articles/20220516_mercaripriceindex/
発表会では、渡辺氏が「メルカリ物価・数量指数」について解説しました。
メルカリ物価・数量指数とは、「メルカリ」内の取引価格と流通数量の変動状況を、「メルカリ」における商品カテゴリー毎に月単位で表す価格指数・数量指数です。「メルカリ」上の小カテゴリ(例:レディース ⇒ 靴 ⇒ モカシン)については、質・構成比等の調整が現時点では困難なため、上下2.5%の外れ値を除き平均価格・平均数量を算出。中カテゴリ(例:レディース ⇒ 靴)および大カテゴリ(例:レディース)では、小カテゴリの売上構成比を用いたTörnqvist指数を算出しています。※4
※4:基準年月の2018年1月と現在の売上構成比の平均を用いて、価格・数量の変化を加重平均して指数を計算しています。
渡辺氏は、「メルカリ物価・数量指数」の観測例としてスポーツ・フィッシングカテゴリを挙げ、「コロナ禍でフィッシングが流行っていると話題になっていたが、この指数を見ると、コロナ禍を境に数量が急増し、価格もじわじわと増加しており、需要が増えている典型的なパターンと言える。メルカリ物価・数量指数では、こうした動向が100以上のカテゴリで細かく把握できるようになっている」と説明しました。
また、特に二次流通市場における需給バランスの観測、物価・流通量の変動を素早く把握できることから、「消費者研究やマーケティング研究をはじめ、トレンドの迅速な把握を目指すメディアや、企業の商品戦略立案担当者の方などにも幅広くご活用いただきたい」と期待を語りました。
渡辺氏による調査結果解説後には、株式会社メルカリ 執行役員 VP of Public Policy 吉川徳明がモデレーターを務め、渡辺氏、ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員 久我尚子氏とのパネルディスカッションを実施。「メルカリ物価・数量指数からわかる2022年4月のトレンド」「二次流通市場における消費動向を把握する必要性」「メルカリ物価・数量指数の今後の可能性」について、3人が意見を交わしました。
- 【パネルディスカッション】
■メルカリ物価・数量指数からわかる2022年4月のトレンド
吉川:「メルカリ物価・数量指数」に即し、2022年4月に前年同月比で物価が上昇したカテゴリ※5として「スマートフォン/携帯電話」を見ると、価格指数が約30%増加している。その一因として、昨年9月に「iPhone 13」が発売されたことが考えられる。数量指数はほぼ横ばいで、価格指数が若干上がっており、「メルカリ」におけるスマートフォンの取引件数を見ると「iPhone 12」が活発に取引されていたことがファクトとして読み取れる。こうした点から、どのような消費者像が見えてくるか。
※5:(参考)2022年5月16日 株式会社メルカリ「メルカリ物価・数量指数からわかる4月トレンド通信」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000157.000026386.html
久我氏:数量に関して、「iPhone 13」に買い替えて「iPhone 12」を出品した方が多くいらっしゃったかというと、そうは見えない。消費者心理としては、最新機種が発売されるとなると、最新モデルではなくとも、少しでも新しいモデルに買い替えたいという思いから需要が高まる様子が伺える。
渡辺氏:このカテゴリに限らない話だが、一次流通市場では、最新機種が売れるのであればメーカーが供給を増やせるが、フリマアプリ(二次流通市場)の場合は、その役割が出品者になるため、数量がそこまで増加せずに留まっている。この点、供給者(出品者)側の行動も反映されており、とても興味深いデータになっている。
吉川:一次流通市場と二次流通市場のデータをあわせて見ることで、業界に明るい方などは、メルカリ単独ではできない解釈やデータの活かし方ができると考えられる。指数を継続的に公開することで、様々な方にインサイトを得ていただけると思っている。
■二次流通市場における消費動向を把握する必要性
吉川:二次流通市場の一部を表しているであろう「メルカリ物価・数量指数」が、国全体の消費動向を把握する上でどのように活かせるのかを考えたい。
久我氏:ニッセイ基礎研究所が2022年3月に実施した調査※6では、20〜74歳の約4割がフリマアプリを利用しており、さらにコロナ禍でネットショッピング全体の利用者が増える中で、20〜74歳において6〜7%利用率が高まっている。それだけ社会における存在感が増している。また、需要を迅速に把握できることについて、4月の指数の物価上昇ランキングを見ると、「スポーツ(チケット)」「施設利用券(チケット)」「アクセサリー/時計(ハンドメイド)」がランクインしており、行動制限のないゴールデンウィークに向けて、外出しようとする消費者心理が見て取れる。
※6 ニッセイ基礎研究所 2020・2021年度特別調査 「第8回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」調査結果概要https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=70917?site=nli
渡辺氏:昨今、サステナブルやESGが重視される中で、リユース市場はますます拡大していくと考えられる。これまで、多くの消費者は一次流通市場で購入をしていたが、二次流通市場への注目も高まり、より大きな割合を占めていくと思う。そして、その様子がしっかり可視化されることは重要。また、一次流通市場と二次流通市場は切り離されているものではない。一次流通市場で需給にミスマッチが発生している場合、それが二次流通市場の物価・数量に反映されることがあるため、こうした動向を捉えることで、一次流通市場のさらなる理解につながる。そうした点でも「メルカリ物価・数量指数」は役立ちそうだ。
吉川:住宅市場が典型例だが、新築住宅市場と中古住宅市場の統計をあわせて確認するのは当たり前に行われていることなので、そのプラクティスを他の市場にも広げていくきっかけになればと思う。
■メルカリ物価・数量指数の今後の可能性
吉川:今後、メルカリ物価・数量指数をどのように活用いただくのが最適なのか、様々な可能性を考えたい。渡辺先生も久我先生もこのデータをご活用いただく立場だが、ご自身の活用方法や、社会にとってどのように活かすべきかをお教えいただきたい。
久我氏:一分析者として言えば、まずは既存の政府統計などのBtoCの動向と同じカテゴリを比較し、どのような動きをするのかを見てみたい。日本では長年、企業が価格転嫁できないことが課題になっているが、需要が強く反応しているデータがあれば、企業の値付けに示唆を与える可能性を秘めていると思う。そして、ミクロの視点だけでなく、日本の景気全体や個人消費全体と比べて、二次流通市場の動きが連動するのか否かを分析するのも興味深いと感じる。
渡辺氏:これまで、コロナ禍のように社会的に大きな出来事が起きた際に、分析に必要なデータがリアルタイムに取得できなかった。「メルカリ物価・数量指数(トレンド通信)」は毎月発表されるため、前月は何が起きたのかが端的に分かるようになる。そうした状態が作られる意義はとても大きく、これまでの様々な統計を補うためにも非常に有用だ。この先も、どのようなことがいつ発生するか分からないが、何が重要で何が必要なのかがリアルタイムに示されることで、政策的な観点でも活用できると考えられる。
吉川:メルカリがデータの活用方法を絞るよりも、ご活用いただける方々の様々な立場に応じて自由に使い分けていただくことが重要だと感じる。もちろん、政府の関係機関が物資の状況を把握したいなどの理由でデータを活用するのであれば、我々は喜んでご提供させていただく。今後、社会がより良くすることを念頭に置きながら、「メルカリ」という二次流通市場で得られるデータを、社会にオープンに提供していきたい。
■登壇者のご紹介
東京大学エコノミックコンサルティング取締役/
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授 渡辺安虎
ケロッグ経営大学院助教授、香港科技大学准教授、アマゾンジャパン経済学部門長を経て現職。需要予測、価格戦略、サブスク設計、機械学習の応用、計量マーケティング等についての現場レベル及びマネジメントレベルでの実務的な経済分析経験を有する。ペンシルべニア大学PhD(経済学)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員 久我 尚子
株式会社NTTドコモ、日本学術振興会特別研究員(統計科学)を経て、2010年よりニッセイ基礎研究所。2021年7月より現職。専門は消費者行動、心理統計。統計を使って女性や若者、共働き世帯、子育て世帯などを中心に暮らしや価値観の変化の変化を読み解いている。著書に「若者は本当にお金がないのか?〜統計データが語る意外な真実」(光文社新書、2014)など。内閣府や総務省、経済産業省、東京都の統計関連などの委員を務める。
株式会社メルカリ 執行役員 VP of Public Policy 吉川徳明
経済産業省でIT政策、日本銀行(出向)で株式市場の調査・分析、内閣官房でTPP交渉等に従事。2014年、ヤフー株式会社に入社、政策企画部門で、国会議員、省庁(警察庁、総務省、金融庁等)、NGO等との折衝や業界横断の自主規制の策定に従事。2018年、メルカリに入社し政策企画マネージャーとして、eコマース分野やフィンテック分野を中心に、政策提言、自主規制の策定、ステークホルダーとの対話等に従事。2021年7月に現職。一般社団法人Fintech協会 理事、特定非営利活動法人 全国万引犯罪防止機構 理事も務める。東京大学大学院経済学研究科修了。